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  気になる表現「になります」「させていただきます」

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気になる表現「になります」「させていただきます」

 
 ここ数年、あちこちで妙に気になる表現を耳にすることが多くなった。サービス業や営業系の会社員がお客様」に対してよく使うようだが、私には「過剰な敬語」どころか、「意味的におかしい表現」に聞こえてしまう。例えばこんな表現だ。

➀レストランでウエイターが注文の料理を運んできて
 「ペスカトーレになります

②企業の広報担当責任者らしき人が登場して
 「この度、開発させていただきました新商品は……」

 下線の部分の表現が気になって仕方ないのだが、身近にこれをおかしいという人はあまりいない。わざわざ「変だ」と騒ぎ立てるのも大人気ないので黙っていたが、とうとう本エッセイのテーマにしてしまった。

 ➀は「ご注文の料理がペスカトーレに変化します」という意味になり、かなり奇妙な出来事ではないか? また、②は明らかに謙譲語で、そこまでへりくだる必要があるのかどうか? 意地悪な人なら「誰の許可を受けて開発した商品なのか?」と尋ねたくなるかもしれない。

変更や変化を表す場合に使う「~になります」の表現

 「なります」は「なる」の丁寧語(ていねいご)で、主な意味として、①他のものになる、②他の状態になる、③(時間や高さなどが)そこに達する……などがある。

 「ペスカトーレになります」では、(ご注文の料理が)➀ペスカトーレという料理に変更される、②ペスカトーレの状態に変化する…といった訳の分からない意味になってしまう。

 よほど格式の高いお店でない限り、「ペスカトーレです」でも、決して失礼ではないと思うのだが、敬意を表したいのなら次の丁寧語で十分なのではないか。

 (こちらが)ペスカトーレでございます

 お客様にもっと尊敬の念を表したいとしても、隠れた主語が料理の品名である以上、尊敬語の出る幕はないのである。

「させていただく」は相手の許可を受け、かつ恩恵を受けているという気持ちを表している

 ②の「させていただく」は、有名人の会見や街頭インタビューなどで頻繁に登場する言葉だが、私にとっては「になります」以上に気になる表現の一つだ。その違和感の一つが、政治家や企業のお偉いさんが、「させていただきました」などと言うシーンをよく見るからだ。表現は謙譲語でも心に響かないのは、顔に染み付いた尊大な表情を隠しきれないからであろう。

 文化庁がまとめた「敬語の指針」なるものをちょっと調べてみると、「させていただく」を使うときの条件は次の2点だという。

1.相手の許可を受けて行うこと
2.恩恵を受けているという事実や気持ちがあること


 ここで、本ページ冒頭の敬語表現例②をもう一度、振り返ってみよう。

企業の広報担当責任者らしき人が登場して
「この度、開発させていただきました新商品は……」


 ②の表現がおかしいのは、第一に「許可を下した相手がだれか」があいまいだということである。まさか「それを聞いている皆様方」ということはないだろうから、新商品を開発した企業以外の団体(または個人)ということになる。そして、許可した相手から恩恵を受けている(あるいは将来の恩恵が見込める)という気持ちがあるということも表現している。

 しかし、その商品が企業内で企画・開発されたものであるのなら、「いたしました」という立派な謙譲語がある。決して威張っている表現ではない。過剰な敬語を強いる社会的な圧が、以上のような誤った敬語の使用法を生んでいるのだろうか…。

 言葉は時代によって変わっていくものだが、その多くは新語によって古い言葉が淘汰されていくものである。乱れた敬語のほうが正しくなる時代が来るのなら、いっそう形だけの謙譲語などなくしてしまえばいい……と思うのは私だけだろうか。丁寧語と尊敬語さえあれば、心にもない謙譲語などいらないような気がするのだが…。

言葉②(2020年12月) 


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