転職するなら早く
駅ホームの陽光の中で突然ひらめいた退社
当時、私は半分近くの時間を出向先(池袋)の宣伝課で過ごしていた。通勤時間は池袋まで20分、会社には45分もかかったので、何かと理由をつけて直行や直帰を多くした。また、会社から池袋に行くときは時々、寄り道をして気分転換を図ったりもしていた。
ある日、池袋の駅近くにあるジャズ喫茶で、1時間ほど大音響を全身に浴びてから宣伝課に入ると、「さっき会社から電話があったよ」と言われて少し焦った。とっさに「ここに来る前に現場を見てきた」と嘘でしのいだが…。クソ真面目のイメージがあった私なので、たぶん疑う者はいなかったと思う。
眠っていた潜在意識が、閃光のように脳を突き抜けた!
「そうだ! 会社を辞めるのだ」
それまで、「いいアイデアが浮かばない」とか、「残業がきつい」とは思っていても、退社することまでには思い至らなかったことが不思議である。だが、つかの間の自由とまばゆい陽光の中で、私は大学4年時に「卒業制作をしない例外的な道」を選んだ、「本来の自分」を取り戻したのだった。
それから数日後、部長に辞めたい旨を伝える。部長は慌てた様子で、私を近くの喫茶店に連れてゆき、30分ほどの面談となった。その中で私は、会社自体に不満があるわけでなく、ディスプレイという仕事から離れたいのだということを、素直に説明した。
当然ながら、「では何をしたいのか」と部長は切り込んでくる。私は「これからのことはまだ決めていません」と答えたが、それは本当のことだった。現代では無謀に思えるかもしれないが、まだ高度成長期にある、売り手市場の時代のことである。貧乏だが、3か月ほどは暮らせる貯金があった。
仕事⑥ (2021年3月)
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