通学の友の減らず口が
高3の私を将棋の猛勉強に走らせた
そして、高校3年の初夏に運命の日は訪れた。通学列車の中で、普段はあいさつをする程度の同級生とたまたま将棋の話になったのだ。さっそく一局お手合わせを…ということになって、昼休みに彼のクラスに遊びに行った。すると、最前列の机の上に紙の将棋盤が2面並べられていて、片方は真剣な顔の二人が対局中だった。その静かな迫力に私は一瞬たじろいだ。
さっそく、くだんの通学仲間とお手合わせをすることになったが、面食らうほどの超早指しである。その上、対局中の減らず口が思考をかき乱す。こちらがちょっと考えていると、「どうした」と催促の嵐……。終盤になると「そろそろ投げるか」と、強烈なパンチが飛んでくる。そして、完膚なきまでに私を叩きのめした後、「次は二枚落ちだな」とのたまわったのだ。
その男は明るい性格で、無邪気に投げかける言葉に嫌みはなかったが、腹が立たない分よけい悔しい。しかし、「彼の減らず口が、私の将棋を強くするきっかけになった」という意味では、いまだに感謝している。
将棋の勉強と受験勉強の両立を図った夏休み
通学仲間の「減らず口男」に完膚なきまでに打ちのめされた将棋を、このまま放置しておくわけにはいかない。夏休み前に私は、将棋の本を2冊購入していた。1冊は序盤の定跡全般を解説した総花的な入門書。そしてもう1冊は、多彩な歩の手筋から豪快な飛車・角の手筋まで、各駒に特有の性能を生かした駒の使い方の解説書である。
将棋の戦法はそれまでにも見よう見まねで、棒銀と原始中飛車は知っていた。しかし、私の知っていた棒銀は、1筋の歩を突き捨てた後、香車で歩を取るもので、本当は銀で取るのが定跡だとは驚きだった。矢倉囲いのことも形は知っていたが、手順は滅茶苦茶で、しかも敵の動きに無関係に囲いに走っていた。
三間飛車や四間飛車にいたっては、もう未知の世界である。「ああ、将棋にはこんな戦法もあるんだ」と感心し、目の前が開けてきたような気がした。将棋を教わった頃の、胸が小躍りするような感覚が甦った。
このひと夏の勉強で、私の将棋の棋力は「大駒一枚」くらいは強くなったはずである。それも「飛車落ち」の手合いを、平手の「先番」に縮めるくらいの進歩だった……と、これは後で推察したことである。
二学期からは、それまで勉強を怠けていた付けが回って、大学受験対策に追われることになる。あの「減らず口男」と手合わせをするチャンスはなく、自分のおおよその棋力を知ったのは大学に入学してからだった。
将棋④(2021年4月)
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