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【文章講座2】 第5章

文章の書き出し

 最初の一行がなかなか出てこないことがあります。一行目が書ければ、案外すらすらと文が続くものです。
 書き出しは、読者の興味をひきつけるとともに、これから展開するテーマを暗示し、最終段落の結びの部分と共鳴し合えれば大成功です。しかし、そう難しく考えることはなく、自然でわかりやすい表現が大切です。この章では、小説やエッセイなどからパターン別に様々な実例を紹介します。

〔CONTENTS〕 第5章 文章の書き出し
書き出し、1行目の書き方   エッセイの書き出し 5つのパターン

最初の一行目をどう書くか

大作家の書き出しの一行


 一行目は話の始まりとして重要です。これから自分が何を話すのか、それを的確に表現し、興味を持ってもらわなければなりません。
 最初の一行が書ければ、もう半分くらいは書き終わったといえる場合さえあります。もちろん、明確なテーマと豊富な素材、そして構想や構成が決まっている場合の話ですが。

 文章の達人になると、構成が決まっていなくても、最初の一行が思い浮かんだ瞬間に、ぼんやりとした構成がイメージできるようになります。最初の文が次の文を引き出し、さらに大まかな道筋をあぶりだしてくれるのです。書いていくうちに、骨組みは次第にはっきりとしてきて、落としどころ(収束)が見えてきます。

 このように、最初の一行は文章展開において重要な役割を果たすものです。まずは大作家の小説の中から、有名な出だしを見てみましょう。

 きょう、ママンが死んだ。もしかすると昨日かもしれないが、私にはわからない。養老院から電話をもらった。
   (「異邦人」カミュ、窪田啓作訳) 

 原文はフランス語なので、味は若干違うのかもしれませんが、これ以上簡潔な文はないという文体で、しかも一行目から読者に謎を投げかけています。小説のテーマは、「ママンが死んだ」ことと直接関係ないのですが、後半の裁判の場面で、母親の死に際して涙を流さなかった主人公の人格が問題にされ、その伏線ともなっています。また、何よりも母親の死を無感動に淡々と語ることによって、主人公の、そして作者の表現したかった世界観をにじませています。
 「異邦人」は、もう一度読み返したときに、一行目のすばらしさを堪能できるでしょう。

 次は日本文学の巨匠です。

 吾輩は猫である。名前はまだ無い。
   (「吾輩は猫である」夏目漱石)

 これまた、実にシンプルな出だしです。猫が語り手になるという大胆な設定を、何の説明もなく、たった一行であっさりと読者に認めさせてしまいました。さらに、「名前はまだ無い」の一文は、読者の想像力を刺激し、物語に引きずり込む役割を果たしています。

 このような名文を見てしまうと、ますます第一行目が書きづらくなるかもしれません。でも、あまり考え込む必要はありません。「今日、ママンが死んだ」も、「吾輩は猫である」も、実に自然で素直な表現です。一行目を力んで書く必要はなく、さりげなくスタートするのがよいのです。

 そのことと関連して、落合恵子さんが新聞に書いているエッセイの中に、次のような「書き出しの一行目」があったので、書き留めておきました。

 書き出しの1行目に凝りに凝った昔があった。今は違う。書き出しで唸らせてやろうというやりかたが、なんだか恥ずかしい。これは年齢による変化なのだろうか。
   (「積極的その日暮らし」落合恵子、朝日新聞、2008年4月5日)

 この一文は、タイトルにも「積極的その日暮らし」とあるように、テーマは文章作法とはまったく次元の異なるものです。その後の展開は、本稿のテーマとそれるので割愛しますが、長年、作家生活をしてきた落合さんが、書き出しの一行目に凝りすぎるのは恥ずかしい、という心境になってきたことは、注目すべきことです。

 一行目に凝ることが悪いというわけではありません。しかし、大事なのはその後の文章の流れです。スポーツでも、あまり肩に力が入りすぎると、フォームがぎくしゃくしてきます。リラックスして集中する中で、練習で培った自然な動きが発揮されることは、文章でも同じことです。

小論文の書き出し


 小論文は、小説やノンフィクション、エッセイなどの文章ほどには、書き出しに悩むことはないかもしれません。

 四部構成においては、まず問題提起から始まることが決まっていますから、テーマを単刀直入に切り出せばよいわけです。また、三部構成の場合も、結論を述べる前の導入部として、問題提起から入ることがあります。

 ただし、問題提起から始まるといっても、イエスかノーのどちらの側に立つかによって書き方が変わってきますから、論旨をしっかり組み立ててから書き始めることになります。書き出しは次のように平易な文を心がけます。

 かなり前から、「自分さがし」という言葉をよく耳にする。

 オリンピックに崇高な理想を掲げる人たちがいる。いわく、商業主義に毒されている。オリンピックに政治を持ち込むな、等々。

 小学校から英語教育を導入する学校が増えている。この動きに対して、早期の英語教育は不要であるという考えも根強く残っている。

 三部構成では、導入部を省略し、いきなり結論を述べる方法もあります。

 日本の車内アナウンスは、親切を通り越してかなりうっとうしい。
 日本語ブームが起きているが、本当に学んで欲しい人は無関心のようである。 
 小学校から英語を教える動きがあるが、果たして効果があるのだろうか。

 四部構成の問題提起から始めるほうが、「客観的」という衣装をまとうことはできますが、その分、まだるっこしくなります。インパクトとしては、三部構成で結論から述べるほうが強くなるでしょう。

 ただし、最終的な説得力の点では、どちらが勝るともいえません。大学入試の小論文では、採点者に自分の考えを訴えるのではなく、論文としてまとめる力を見せるわけですから、四部構成のほうが無難です。

 なお、小論文とは異なりますが、解説文や説明文も結論から書き出します。

最初の文は短く。知りたい気持ちを誘発


 書き出しは、一つの文で改行される場合と、二、三の文がつながって段落を形成する場合があります。いずれの場合も、最初の文は短くするにこしたことはありません。

 読み手は、先入観のない真っ白な状態で第一行に臨むわけですから、情報がたくさん詰まっている長い文をいきなり読まされると、大脳の反応が遅くなります。これは日常会話に置き換えてみればわかります。たとえば、待ち合わせに遅れた人と待たされた人との会話です。

「いやあ、ごめん、ごめん。電車が遅れちゃって」
「事故かなんかあったの?」
「中央線が人身事故でストップしていて、そのあおりで総武線もスゴい混雑で…」
「大変だったんだ」
「ホームに人があふれかえって、結局、電車を二本、見送っちゃったよ」

 上の会話では、いちばん重要なことから始まり、相手の疑問や気持ちを引き出して、それに答える形で会話をしています。これを一気に説明しようとすると、次のような会話になります。

「中央線が人身事故でストップしていてね。そのあおりで総武線もすごい混雑で、ホームに人があふれかえって、身動きもできない状態だったんだ。そのため電車に乗ることができず、結局電車を二本見送ることになって…。待ち合わせに遅れて、ごめんね」

 会話と同じように文章でも、読み手をまず自分の土俵(テーマ)にのせることが大切です。そのためには読み手に、「その先が知りたい」、「その理由が知りたい」という気持ちを抱かせるような内容と表現が必要になってきます。

 読者の知りたい欲求を刺激するのがうまいのは、ミステリー作家たちです。ミステリーはもともと謎解きの探偵小説が発展したものですから、読者をわくわくさせる技術に長けているのは当然かもしれませんが、特に第一行目には工夫のなされた文が多く見られます。

 現代の人気作家2人の最初の一行を、じっくり味わってください。

 初めに届いた贈り物は、紳士用の手袋だった。
   (賢者の贈り物 阿刀田高)

 その男は、真夏の強い日差しを照り返すアスファルトの路上に立っていた。  
   (返事はいらない 宮部みゆき)

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