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7章 魅力的な文章文章のタイトルと一行目/簡潔な言葉の力

文章講座1
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①文の構造 ②読みやすさ ③テーマと準備 ④構成/構想 ⑤書き出し ⑥推敲 ⑦共感/リズム 

文章のタイトルと一行目/簡潔な言葉の力

 

書き出しは素直に
できるだけ短い文で

 頭の中では書きたいことがほぼまとまっているのに、第一行目がなかなかでてこない。こんな経験はありませんか?

 文章の書き出しで大切なことは、一番伝えたいことを簡潔な言葉で素直に書くことです。あまり凝った表現にせず、できるだけ短い文でさりげなくすべり出します。短い文で言い足りないことは、次の文で補うのがよいでしょう。すると次から次へと文がつながってゆきます。読む人が、一行目から引き込まれるように先へ進んでしまう。それが簡潔な言葉の力なのです。

 なお、文章は必ずしも一行目から書き始めなくてもよいのですが、書き出しが重要であることに変わりはありません。私の個人的な感覚では、文章の大半を書いてしまってから一行目を考え直し、それを本論につなげるのは難しい作業となります。川の流れのような自然さが出せるかどうか…。初めの段落と次の段落の頭の部分は、書き直しになることを覚悟しなければなりません。

タイトルのつけ方ー3つのポイント

 

 タイトルは文章を書き始める前に決めておく必要はありませんが、仮題だけはつけておいたほうがよいでしょう。これから書く内容が中心テーマから脱線しないためにも、全体の内容を素直に表すタイトルをつけておきます。この段階ではあまり細かい言い回しなどにこだわる必要はありません。

 文章を書き終えたらタイトルがそのままでよいかどうかを検討し、別案をいくつか出した上で最終決定します。タイトルについては次の点に留意してください。

①できるだけ短くて読みやすいタイトルにする
②できれば読者の心に訴える新鮮な一語があるとよい
③一番伝えたい中心テーマに沿った言葉を選ぶ

実用書のタイトルと、まえがきの一行目に学ぶ

 文章の一行目については、文章講座2・第5章「文章の書き出し」に小説やエッセイの例を抜粋して紹介していますが、ここでは文芸的なものではなく、小論文にも通じる実用的な文章の第一行目を紹介することにします。

 タイトルは本の売れ行きに少なからず影響しますから、編集者が時間をかけて検討しているはずです。当然、広告効果を狙ったものが多く、論文やエッセイのタイトルにはふさわしくないものもありますが、簡潔な中にも訴える力がこもった表現は参考になると思います。

 引用するのは私の身の回りにある実用書(実用的な啓蒙書や教養書も含む)のまえがきです。便宜上、一行目のパターンを次の6つに分類して紹介します。

【一行目のパターン】

①読者に語りかける
②伝聞、エピソードから入る
③いきなり目的や結論を述べる
④自分の体験や自己紹介からスタート
⑤思い切ったことを単刀直入に述べる
⑥興味深い事実、薀蓄を披露する

①読者に語りかける

 疑問文の形で書き始めたり、「皆さん」「あなた」などの言葉で読者に語りかけたりするスタイルは、親しみやすく、また自分の土俵に上がってもらうという意味でも効果的です。

ドラゴン・イングリッシュ 基本英文100
 英作文の勉強はこの100文を覚えるだけでいいと言うと、きっとこんな反論をする人がいるのではないでしょうか。 (竹岡広信著/講談社刊)

3分以内に話はまとめなさい
「えぇ~、はなはだ簡単ですが、これをもって挨拶とさせていただきます」
長々と話しておきながら、こう結ぶ人を見かけませんか? (高井伸夫著/かんき出版刊)

インド式秒算術
 皆さんが知りたいのは、どうすれば計算が速くなるかという具体的な方法の紹介とその成果だけだと思います。 (プラディープ・クマール著/日本実業出版社刊)

相続はおそろしい
 「相続」という言葉に、皆さんはどのようなイメージを持っているのでしょうか? (平林亮子著/幻冬社新書)

だれでもかける イラスト教室
 もしかして、あなたは、こっそりいたずら書きをしてみたことがおありですか?
 (服部有紀著/誠文堂新光社刊)

②伝聞、エピソードから入る

 自分が見たり聞いたりしたことをテーマに関連付けて述べるのも、読み人に親しみを持ってもらいやすく、一行目の書き方として一般的です。本題に入る前の枕のような役割を果たします。

実践!護身術
 かなり以前のことですが、東京を訪れたある外国人が「世界で一番無防備なのは、日本人じゃないか」と感想をもらしていたのを聞いたことがあります。 (佐久間鉄石著/西東社刊)

本当はうそつきな統計学
 男性同士の酒の席では、たまに「どの地域に美人が多いのだろうか?」という話題が出てくる。 (門倉貴史著/幻冬舎新書)

ペン字の書き方入門
「私はいくら手習いしても、ちっとも上達しない」と嘆く人がずいぶんいます。 (浜田与三彦/長岡書店刊)

ボケにならない暮らしのテクニック
 中高年の皆さんで、近ごろ物忘れがひどくなった、物覚えも悪くなったとなげく人は少なくありません。 (ボケにならない暮らしのテクニック/渡辺登著/実業之日本社)

数学おもしろ事典
 数学という言葉を聴いただけで、「私は苦手で……」と逃げ腰になってしまう人は多い。 (樺亘純/三笠書房刊)

③いきなり目的や結論を述べる

 小論文の一行目では目的や結論を述べるのが一般的ですが、単行本のまえがきでもよく見られます。味わいよりも何よりも、内容を簡潔に伝えること。実用に徹します。

ヨガのすすめ 健康と美の追求
 ヨガとは、人間の心身について、どうすればどうなるのかということを体験を通じて追求した大実行の哲学です。 (沖正弘著/日貿出版社刊)

天才の読み方
 本書の目的は、天才というものすごく面白い人物たちの話を楽しみながら、現実の自分の人生に役立つポイントを一つでも学ぶことです。 (斎藤孝・大和書房刊)

世界のゲーム事典
 この本の目的は、世界各国の遊びのアイディアを紹介することにあります。 (松田道弘編/東京堂出版刊)

米会話 | リダクションの演習
 英語の「聞くこと」「話すこと」の能力を伸ばす上で、重要なポイントに Weak Forms(弱形)をもつ語に習熟しているかどうかということがある。 (大井上滋、Susie F Cowan 著/語研刊)

ハムスター・ウサギ・リスなどの飼い方
 この本に出てくるのは、主にげっ歯目の動物です。 (霍野晋吉著/成美堂出版刊)

④自分の体験や自己紹介からスタート

 自分がどういう立場の人間か、どんな専門家なのかということが内容に影響する場合、自己紹介や自分の体験の話から書き出すのも効果的です。

花の写真を撮る
 私が花をテーマに撮影を始めて、二十数年が過ぎた。 (夏梅陸男/講談社刊)

戒名は自分で決める
 2010年1月に刊行した拙著『葬式は、いらない』は、幸いなことに多くの読者を得ることができた。 (島田裕己著/幻冬社新書)

猫と暮らせば
 私は東京谷中の獣医師です。自分が生まれた家を診療所にしています。
  (野澤延行著/集英社新書)

⑤思い切ったことを単刀直入に述べる

 独善的な文章は反発を招きますが、時にはあえて思い切ったことを一行目から断定的に述べてみるのもインパクトがあります。啓蒙的な内容の文章では、八方美人的な用心深い文章よりも効果的でしょう。ただし、説得力のある展開が求められます。

「たった一言」の心理学
 世の中は、ある意味“不公平”なところだ。
 たとえば、同じような能力を持ちながら、印象に残る人と、残らない人がいる。 (多胡輝著/三笠書房・知的生き方文庫)

考えない練習
 私たちが失敗する原因はすべて、余計な考えごと、とりわけネガティブな考えごとです。 (小池龍之介/小学館文庫)

大人のための健康法
 テレビを見るとバカになり、それが心と体の健康を著しく害する危険がある。
 (和田秀樹著/角川oneテーマ21)

⑥興味深い事実、薀蓄を披露する

 あまり専門的にならない程度に、テーマに関連した興味深い事実から話題を切り出すのも面白い手法です。ただし、どんな話題が読者を惹きつけるか、判断が難しい面はあります。

ひもとロープの結び方百科
〔結び〕は人類にとって火の使用と同じくらい古くかつ重要な発明で、現在世界中に、4000種類以上の〔結び〕があるといわれています。 (小暮幹雄著/新星出版社刊)

岡本清孝の 酒の肴
 俗に酒好きのことを「左党」(さとう、またはひだりきき)などといいますが、これは中国の古礼を集大成した「礼記」の中から引用されています。 (岡本清孝著/柴田書店刊)

新しい詰将棋 3・4・5段
 わが国で最も古い詰将棋の本は、一六一六年ごろといわれていますから、徳川二代将軍秀忠の時代ということになります。 (伊藤果著/成美堂出版刊)

 最後に繰り返し強調しますが、タイトルはこれ以上短くできないと思われるほど言葉を絞り込みながら、イメージが広がりそうな表現になっています。そして、書き出しは自然に頭に入りやすい、シンプルな言い回しを選んでいます。「言葉自体が持つ本来の力」を感じ取ることができたでしょうか?


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