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  なぜ自分史を書くのか? 目的と意義、テーマ

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なぜ自分史を書くのか? 目的と意義、テーマ

 

 「いつか自分史のようなものを書いてみたい…」
 あなたはそんなことをちらっと考えたことはありませんか?

 このコーナーは、「すぐにでも自分史を作り始めたい」という方や、「今はその気はないけど、何となく自分史のことが気になる」という方のために、自分史の目的・意義・効果から始まって、書き始める前の準備や文章の書き方まで、わかりやすく道案内するものです。

若い世代に広がる自分史―多様化する目的と意義

 かつて、自分史には「成功者の自叙伝」的な雰囲気が漂い、ほとんどの方には無縁のものでした。しかし、昭和の終盤当たりに「自分史講座」のようなものが世に出ると、ごく普通の高齢者が、「我が人生を振り返り、その足跡を遺したい」と考えるようになります。その多くは戦争体験者で、戦後の貧しい生活の中で努力を重ね、高度経済成長を支える中で小さな幸せをつかんだ、という方々が多いのが特徴でした。

 さらに、戦争の記憶がない世代が自分史を書くようになると、自分自身の成長物語や、自分のこだわってきた仕事や趣味の世界を書くとか、懐かしい過去にタイムスリップする感覚で書くというように、さまざまな動機で書かれるようになります。

 その後、自分史は働き盛りの人や二十代の世代にまで広がり、必ずしも高齢になってから書くものではなくなりました。自分史を書く目的や意義が多様化してきたのです。自分史は、世代や目的別に次の3つに分けることができます。

 ①高齢者が「生きてきた証」を書く
 ②人生の節目に書く
 ③特定のテーマや体験に絞って書く

高齢者が「生きてきた証」を書く/古典的な一代記

 仕事をリタイアし、孫の成長に目を細めながら趣味に生きていく日々…。そんな安寧に浸りながら「我が人生」を振り返ってみると、山あり谷あり、順風満帆とはいえないこの人生の荒波をよくぞ乗り切ってきたと、自分を褒めてあげたい気分になるものです。例えば…  

 そういえば、子供たちにはあまり自分のことを話してなかったなあ。昔の話をすると笑われるけど、歴史の教科書の最後に載っているようなことを、私は体験してきたのだ。時代や考え方は異なっても、身近にいる私という生身の人間が、喜んだり苦しんだりしながら歴史を生き抜いてきた体験を語ることは、若い世代にとっても意味あることではないか。甥、姪や孫たちにも読んでほしい…。

 …とまあ、こんな心理プロセスを経て、「一代記」を書こうと思い立つわけですね。それとともに、苦しかった時代を思い出しながら、人生の意味を肯定的にとらえたいという思いもあるでしょう。「自分とはいったい何だったんだろう」という自己分析ないし意味付けは、若い世代の専売特許ではありません。人生の第三コーナーを曲がったところで、これまでのレースを振り返り、残された直線コースをどう生きるかを発見できれば、自分史を書くことは「十分以上」の価値を持つでしょう。

人生の節目に書く/己を知り、未来を考える

 人生半ばで、自分史を何のために書くのか? その答えはすぐ上の記述の中に出ています。人生の節目(第一コーナーまたは第二コーナー)で振り返り、「自分とはいったい何だったんだろう」という自己分析ないし意味付けを行った上で、残されたコースの生き方を考えるということです。

 そこで大事なことは、全体的には自己肯定的な基調を保ちつつも、大小いくつかの失敗と真摯に向き合うことです。つまり、自己否定が過ぎるのも、うぬぼれるのもまずいということですね。ひと頃、若者の間に「自分探し」という言葉が流行りましたが、この言葉には「今までの自分は本当の自分ではない」というニュアンスがあるように感じられます。

 でも、「本当の自分」は少なくとも中学校入学前後から芽生え始めているはずです。十代から二十代前半にかけて、何に夢中になり、何に悩んだのか。その中にいる自分を発見しなくて、何を探すのでしょうか? 短いなりの自分の人生を振り返り、記述することによって見えてくるものがあるはずです。己を知ることが未来への第一歩であることを、自分史が教えてくれるでしょう。

特定のテーマや体験に絞って書く

 特定のテーマや体験に絞って自分史を書く場合は、「自分自身を振り返る」ということよりも、「自分の貴重な体験を多くの人に知って欲しい」という場合が多いでしょう。

 かつて、戦争を経験した人たちが次々と卒寿を迎えていく中で、その体験を語り継ぐということが自分史を書くことの大きな動機となりました。軍に否応なく招集されたこと、軍隊内の理不尽な出来事、思い出したくもない戦闘の現場、飢えと病気、学校等での軍事教育、空襲、疎開、家族や親友の死……忌わしい記憶を紡ぎ出して書き綴られたその言葉には、激動の歴史を生き抜いてきた人のみが語れる、一人一人の重い真実が宿っています。

 また、地震や津波、土砂災害、洪水、雪崩などの自然災害で九死に一生を得た方も、その痛手から経済的にも精神的にも立ち直った時点で、体験した出来事や見聞きした一部始終を詳しく書くことができます。庶民でも生々しい「歴史の証人」になれるのです。

 それらは戦争体験と同様に、「両親から聞いたことを記録する」という形もあるでしょう。別の視点から、「自分史の一部」としてまとめることもできます。

 ※戦争体験の自分史エッセイについては、私もリライトをお手伝いしたことがあります。内容紹介はこちら⇒ 95歳女性が書いた満州・敗戦・引揚げ…

そのほかのテーマ型・自分史

 テーマは戦争などの「不幸な体験」に限りません。例えば、次のような経験をしてきた人なら、感動の自分史(ノンフィクション物語)が作れるでしょう。

・長年、外国生活を経験した人
・長い闘病生活を経験した人、あるいはそれを支えた家族
・スポーツや、音楽などの分野で、子供時代から頑張り、成果を上げた人
・職人的な高度の技術・技能を持つ人
 など

 最後に一つ付け加えておきたいことがあります。それは、自分史は誰かに読んでもらうために書くわけですが、最大のメリットは、書くことそのものが自分自身を豊かにするということです。

 人生の節目は人によって千差万別ですが、一般的には就職、結婚、離婚、第一子出生、転職、組織内の移動・転勤、子供の独立、肉親や配偶者との死別などが考えられます。

 また、年齢も目安になります。例えば、50歳(半世紀)になったとき、あるいは還暦(60歳)や古稀(70歳)などを迎えた時も、一つの区切りとなります。


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