主語の省略と偽物の主語(やっかいな日本語)
主語は「~は」「~が」に当たる文節のことで、文の主体を表します。述語は文の主体が「~である(ない)」「どうした」「どんなだ」というような、事実や動作、意見などを表すものです。
主語と述語は、次のように必ずセットになっています。
アホウドリは絶滅危惧種である。
6月1日に新機種がようやく発売される。
その日の日本海は、前日とはうって変わって穏やかだった。
主語で気をつけなければならないのは、「は」がついていても主語ではない場合があるということです。また、主語が省略されることも日本語には多く、時には偽物の主語がつく場合もあります。
たとえば次のような文章がその例です。
①キンギョソウは、切り取った茎からまた茎が伸びる。
②失敗は恐れてはならない。
③国の交戦権はこれを認めない。
①の「キンギョソウは」が主語ではないのは、あとに「茎が」があるのでわかりやすいでしょう。茎が伸びるのであって、キンギョソウが伸びるのではありません。
②の「失敗は」も主語を表す「は」ではありません。「失敗を」とするところが、強調のために「は」になったのです。隠れた主語はもちろん、「私たちは」あるいは「君たちは」などです。
③も「交戦権は」を主語と考えたら意味が通らなくなります。この場合の「は」は場を表す用法で、「交戦権については」という意味になります。隠れた主語は「国民は」「我々は」「日本国憲法は」などです。
それでも「偽物の主語」を使う理由
③のように、主語と紛らわしい「は」の使用はできれば避けたいのですが、①②の例の場合は「偽物の主語」を使わないと、かえってしっくりしません。試しに書き換えてみましょうか。
①キンギョソウにおいては、切り取った茎からまた茎が伸びる。
②失敗を恐れてはならない
①は理屈っぽくて、もたついた文になっていますし、②は「失敗」があまり強調されていないことがお分かりでしょう。
このように、「は」には主語を表わす以外にいくつかの用法があり、それだけでもややこしいのですが、主語を省略しても意味が通じることがあるばかりか、むしろ省略したほうがすっきりすることさえあります。「日本語は難しい」といわれるゆえんです。これは日本語の文法的構造にも原因がありそうですが、「言わずもがな」のことは言わない、日本人の「察する文化」が根底にありそうです。
しかし、文章に関してはその場の空気や阿吽(あうん)の呼吸といったものが当てにできないので、意味にいくつかの解釈ができる文とか、読者の読解力を要求する文は避けたいものです。
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