うまい文章とは? 技術以前の心構えから…
③文章の推敲とチェック
とっておきの上達法
意外に思うかもしれませんが、文章上達の決め手は推敲にあります。推敲の力こそは文章力といっても過言ではありません。推敲は、文章を書いている最中にも必要ですが、いったん書き上げたあとのほうが重要です。これを磨くには文章上達本を読むなどの他に、「お気に入りの文章のお手本を書き写す」という効果的な方法があります。
文章を書き上げるまでの推敲
書きながらの推敲では、もっとぴったりした表現はないかと気になったり、わかりづらい表現だということに気がついたり、あるいは文章があらぬ方向に逸れていると気がついたりしたときに、引き返して書き直すことが最も多いでしょう。この作業は、段落の区切りごとに読み返して行ったり、半分くらい書き進んでから文章の流れをチェックする意味で行ったりもします。
誤字、脱字、書き間違いのチェックは別に行う
そこで、書かれた内容や表現のことを一切意識せずに、重箱の隅を突っつくようにして機械的に文字をチェックすることを、最後に行なってください。頭が創造的な状態になっていればいるほど、人はミスが多く、またミスを発見する能力も落ちてきますから、脳のモードを変える必要があるわけです。
舌足らずを補い、余分な素材・表現を削除
さて、文章の推敲は一通り書き終えてからが本番を迎えます。
まずは、自分の原稿からいったん心理的な距離を置くために、できればまったく別のことを小一時間ほど行うことをお勧めします。たとえば、食事をとる、場所を変えてお茶やコーヒーを飲む、表計算などの作業をする、人と打ち合わせをする、散歩をする…などです。理想は、原稿を一晩寝かせることです。
自分の原稿から一時的に距離を置くと、見えてくるものがたくさんあります。次のチェックポイントに従って何度か読み返してみてください。
チェック① 書き出しの2、3行が簡潔で、テーマにつながる内容になっているか?
チェック② 論旨がわかりづらい文章や、 もたついた感じがする段落はないか?
チェック③ 削除しても内容が十分に伝わる文や段落はないか?
チェック④ 全体の流れは自然か?
推敲の原義は「推すか、敲くか」を考える、つまり表現を練り直すことですが、上の作業はむしろ「添・削」といってよいでしょう。舌足らずなところに適切な言葉を「添え」、不要な個所を思い切って「削る」ことが肝要。特に、文章を簡潔にする上では、添えることよりも削ることのほうが重要です。
一生懸命書いたばかりの文章を削る作業は忍びないものです。でも、中心テーマから外れた不要な文章素材やエピソードを削り、なくても意味が正確に伝わる語句を削ることによって、文章はより洗練されたものになるのです。「削れば削るほどいい文章になる」くらいの気持ちを持ったほうがよいでしょう。削りすぎて舌足らずになったら、ほんの少し語句を補えばよいのですから。
お手本探しの読書と、書き写しの効果
文章を見る眼を養う有力な方法として、文章読本のたぐいを一通り勉強することはすでに述べましたが、もう一つの方法として、「文章のお手本を見つけて、それを書き写す」という方法をご紹介します。
お手本となる文章は、「こんな文章が書きたい」と思うものなら何でもよいでしょう。わかりやすくて説得力のある文章をめざすなら、一般向け教養書や啓蒙書がよいかもしれません。また、名手といわれる人のエッセイ集も味わいがあっていいものです。小説を書きたいのなら、短編ないし中編小説や、ノンフィクション作品の中から、気に入った作品をいくつか選びます。
なお、文芸評論や芸術評論などの難解な文章は、評論でありながらそれ自体を「芸術作品」と意識している感があり、言葉をひねくり回しすぎの作品も少なくなく、お手本としてはおすすめできません。
それとは正反対の文体をもつ新聞の取材記事は、短く正確に書くことを“至上命令”としていますから、一般的な文章のお手本にはなりません。新聞記事を書き写すなら、署名入りの解説が最適かもしれません。
書き写す量は、言い回しやレトリックを参考にしたいのなら、1段落、数行くらいが適当です。私は文章修行時代、400字から800字くらいの範囲で書き写しました。文のつながりや、文章が流れるリズムがつかみたかったからです。
お手本の書き写しは、大学ノートなどに手書きするのがおすすめです。タイピングでは、一語一語噛みしめながら文字を書く生理的感触に比べると、効果が落ちそうです。蛇足になりますが、書き写したお手本は何度も繰り返し読むことが肝要です。
次は⇒自然でなめらか、読者の気持ちに沿った文章の心得〔1・2〕
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