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第1章 文の構造と悪文悪文の見本|長すぎる主語、遠すぎる主語と述語

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悪文の見本|長すぎる主語、遠すぎる主語と述語

 

主語の省略について

 日常会話では、主語を省略して話すことがよくあります。特に当事者同士が主語の場合は、話の流れや表情などで主語がだれなのかがわかるので、頻繁に省略が行われます。

 ところが書き言葉ではそうはいきません。下手に主語を省略すると、主語がすぐには判断できないこともあります。そうかといって、同じ主語が立て続けに登場するのは少しうっとうしい。わかりきった主語は省略するのが、大昔からの日本語の美学です。

 〔主語が省略されない文章〕
 その日、彼女は15分ほど遅れてやってきた。彼女はピンクのジャケットを翻し、軽やかに席に着いた。彼女の表情からは「遅れてすまない」という気持ちは読み取れなかった。

 上の文章では、「彼女は」「彼女の」で始まる文が3つ続いています。また、本テーマから外れますが、どの文も「~た」で終わっています。そのため幾分くどくて単調な印象がしないでもありません。
 次は、2つ目と3つ目の文をほんの少しいじったものです。

 〔主語を省略した文章〕
 その日、彼女は15分ほど遅れてやってきた。ピンクのジャケットを翻し、軽やかに席に着く。その表情からは「遅れてすまない」という気持ちは読み取れなかった。

 2つ目の文章の主語を省くことによって、文がすっきりしました。終わりを「着く」と現在形にしたのは、単調さを避けるためです。3つ目の「その」は「軽やかに席に着く彼女の」という意味で、文のつながりを強化しています。微妙な違いですが、より生き生きとリズミカルになってきたと思いませんか。

主語の省略を避けたいケース

 

 主語は省けても省かないほうがいい場合もあります。個人や団体などの意見などを述べるときなどです。主語をはっきり書いて、自分の属する会社や団体などの公式見解なのか、それとも自分の個人的見解なのか、責任の所在を明らかにするべきでしょう。それをぼかして書くのはマナー違反だと、筆者は思います。

 政治家や官僚の書く文章では、意図的に主語が省かれる傾向がありますね。いかようにも解釈できる余地を残しておく、独特の文章技術に長けているわけですが、真似をしないほうがよさそうです。官僚の書いた文章がほめられたためしはありません。

長過ぎる主語は避ける

 主語は「私の趣味は」とか「担任の先生が」などのように短いものばかりではありません。時には主語の説明をする必要上、長い修飾句がつくこともあります。主語は長くなればなるほどうっとうしい感じを与え、またわかりづらくなります。
 次の例文をご覧ください。

①同時通訳をしている友人が、急にイタリアへ飛び立った。
②最も手軽で元手のかからない仕事は文筆業である。
③熱帯地方の河口などにあるマングローブの林は、年々減少しています。
④地球温暖化の主要な原因物質である二酸化炭素の排出量を抑制するための炭素税は、その排出量によって税金を徴収するシステムである。


 ①はふつうの文です。
 ②は主語を短くするために「文筆業は最も手軽で元手のかからない仕事である」としても意味は同じですが、強調する主体が変わってしまいます。どちらが良いかは、作者の意図によって選ばれるべきものです。
 ③の主語は許容範囲ぎりぎりの長さですが、文がもたついています。前後の文章も合わせて直したほうが、わかりやすい文章になります。
 問題は④の文です。文頭から「炭素税は」までが主語だと理解するまでに、少々時間がかかります。

悪文の見本

 〔悪文再掲〕
 地球温暖化の主要な原因物質である二酸化炭素の排出量を抑制するための炭素税は、その排出量によって税金を徴収するシステムである。

 これはまさに悪文の見本です。高校受験用の参考書で見かけた文をアレンジしたものですが、わかりづらい文章を読ませて読解力を鍛える意図でもあるのでしょうか。

 このような場合、文を2つに分けるのが常套手段ですが、一つの文でも何とかなりそうです。両方やってみましょう。長い文だから内容が濃いということはまったくないということを、ここで確認してください。

 〔添削1〕
 炭素税は、地球温暖化の主要な原因である二酸化炭素の排出量を抑制する目的で作られたもので、二酸化炭素の排出量によって税金を徴収するシステムである。

〔添削2〕
 二酸化炭素は地球温暖化の主要な原因である。この排出量を抑制するため、排出量によって税金を徴収する炭素税が導入された。

主語と述語が遠くならない

 文章は人に読んでもらうものですから、一度読むだけで理解できるように心がけるのが基本です。読者のためだけでなく、書き手自身もそのほうが混乱しなくてすむのです。別の節で述べますが、文法的におかしい「ねじれ文」を見ますと、主語と述語の間が長過ぎる場合に起こりやすいといえます。ここで、先ほどの炭素税についての記述のうち、文を2つに分けないで書き直したものをもう一度、見てみましょう。

 炭素税は、地球温暖化の主要な原因である二酸化炭素の排出量を抑制する目的で作られたもので、二酸化炭素の排出量によって税金を徴収するシステムである

 この文では主語の「炭素税は」に対して、「作られた」と「システムである」という2つの述語があります。2つあることは悪くないのですが、距離が離れ過ぎています。そのため多少の読解力が要求されます。  

 
 この程度のことは中学生でも理解できるでしょうが、理解のスピードは少し落ちるでしょう。読み手に負担を与えているのです。参考書なら読んでくれるでしょうが、これがエッセイだったら途中で読むのを投げ出す人が出てくるかもしれません。やはりこの文は2つに分けるほうがよいようです。

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