文章上達のツボ~わかりやすい文章(HOME) 文章上達法文章の構成・書き出しと推敲(文章講座2)
 
7章 魅力的な文章とっつきにくい書き出しを共感できる内容に

文章講座1
悪文の直し方
文章講座2
構成・書き出し~推敲 
文章いろいろ
作文・仕事・自分史… 
エッセイ
猫・写真・囲碁将棋… 
①文の構造 ②読みやすさ ③テーマと準備 ④構成/構想 ⑤書き出し ⑥推敲 ⑦共感/リズム 

とっつきにくい書き出しを共感できる文章に

 

 そのままでは人に見せられない文章が、リライトの専門家の手にかかると、どのように変身するのかをご覧いただきましょう。さほど大きく書き換えなくても、全く別人のように明快で読みやすい文章になります。そして、原文と添削後の文章をつぶさに見比べることによって、さまざまな文章作法が見えてくるでしょう。

 まずは戦前、満州(今の中国東北部)に生まれ育ったある女性のエッセイ集の原文をご覧ください。満州での思い出を書いています。私(管理人)がリライトのお手伝いをしたものですが、作者の許可をいただいて教材として載せるものです。ご本人にはお気の毒ですが、素材を探す中で、特に出来の悪い文章を選びました。もっと良い文章がたくさんあったのですが、それでは教えることが少なくなります。つらいところです。

 この文章の問題点はどんなところにあるのか、そして、どう直したら読みやすくて魅力的な文章になるのかを考えてみてください。

 フィギュアスケート(原文)

 満州では冬になると外でスケートをした。校庭一面をスケート場にして、体育の授業だった。先生方が夜、水をまいて作ってくださったらしい。低学年は下手なので滑るより遊んでいた。上手になるとスピードスケートが主で、フィギュアスケートなどまだなかった。

 フィギュアを始めて見たのは、稲田悦子さんがオリンピックに出るために、ヨーロッパへ行く途中、奉天で下車して、演技を見せていただいた。その時は、バックと八の字を描くだけだった。今のように四回転とかくるくる回るのを見ると、スピードスケートのほうは昔と変わらないが、フィギュアは何と進歩したか、まるで曲芸みたい。演技と共に服装も何と華やかになったことか。私たちは稲田さんの演技を見てから、バックの練習をしたり8の字を描く練習をしたが、まだ難しかった。「下駄スケート」というものもあり、下駄の歯のところに金具をつけて滑る。靴が高かったので。今は冬がるのが楽しい。なぜならフィギュアが見られるから。

問題点と添削・リライトの方針

 リライトにかかる前に、必ず問題点を整理します。上の原文「フィギュアスケート」の主な問題点は次の4点です。

①出だしに惹きつけるものがない。せっかく、若い人にも共感できるテーマなのだから、いきなり現代につながる表現が欲しい。
②2番目の段落の冒頭の文、「フィギュアを始めて見たのは、稲田悦子さんがオリンピックに出るために、ヨーロッパへ行く途中、奉天で下車して、演技を見せていただいた」は、見事な(?)ねじれ文である。屋台骨がへし折れた感がある。
③終わりのほうに来て、急に文章がリズミカルになったが、短文があまり効果的には働いているとはいえない。意味の自然な流れが見えづらく、独り相撲を取っているようである。
④2番目の段落が長くて、二部構成のようになっているが、これを三部構成か、四部構成(起承転結)の形にしたい。

 以上の問題点を念頭にリライトした結果、次のような文章に生まれ変わりました。なお、このエッセイ集はかなり硬いテーマも含むため、大正生まれの女性の柔らかさが出やすい「ですます調」に書き換えています。

 この題材は、ご本人の代理人の了承を得て掲載しています。
 フィギュアスケート(リライト後)

 近年、フィギュアスケートの人気が日本で沸騰していますが、戦前はほとんどの人がそんなスポーツがあることさえ知らなかったのではないでしょうか。

 満州に住んでいた頃、冬になると校庭でスケートをしました。体育の授業だったのですが、前夜に先生方が校庭に水をまいて「スケート場」を作ってくださったようです。低学年は下手なので、滑るというよりも遊びが中心。上手になるにつれスピードスケートをするようになりましたが、まだフィギュアスケートは知りませんでした。

 初めてフィギュアを見たのは、稲田悦子さんというオリンピック選手が奉天を訪れたときのことです。ヨーロッパへ行く途中、奉天に寄って演技を披露してくださったのですが、その時はバックと8の字を描くだけでした。今のように目の回るような高速スピンや四回転ジャンプなどを見ると、まるで曲芸みたいで、その目覚ましい進歩には驚かされます。また、演技だけでなく、衣装も何と華やかになったことでしょう。

 稲田さんの演技を見てから、バックの練習や8の字を描く練習をしてみましたが、私たちにはまだ難しすぎたようです。その頃、下駄の歯のところに金具をつけた「下駄スケート」というものがあり、スケート靴が高かったのでそれを履いて滑っていました。今は冬が来るのが楽しみです。なぜならフィギュアが見られるから…。

ねじれ文の解消テクニック

 ねじれ文は多くの場合、一つの文に欲張っていろいろなことを詰め込むことによって生じます。上のねじれ文では、文を二つに分けて、あとのほうを次に続く文に連結するという手法をとっています。
 「文A(ねじれA1・A2)」+「文B」 → 「文A1」+「文A2・文B」

 (原文)
 フィギュアを始めて見たのは、稲田悦子さんがオリンピックに出るために、ヨーロッパへ行く途中、奉天で下車して、演技を見せていただいた。その時は、バックと八の字を描くだけだった。

(添削文)
 初めてフィギュアを見たのは、稲田悦子さんというオリンピック選手が奉天を訪れたときのことですヨーロッパへ行く途中、奉天に寄って演技を披露してくださったのですが、その時はバックと8の字を描くだけでした。

 ある程度時間を置いてから自分の文章を読んだ時、頭に入りづらい文章だと感じたなら、主語・述語の関係がねじれている可能性を疑ってみるとよいでしょう。ねじれ文に気がついた時に、それを解消する有力な方法は、文章を2つに分けることですが、そうすることで短文が続くのが嫌な場合は、上のような解決法を知っていると便利です。

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