卒業制作を逃れる道はないか?
就職未定のままの悪戦苦闘
工学部とは言え、デザイン系である。卒業制作を逃れる術はない。その現実が、3年生を終えて卒業に必要な単位をほとんど取得した私に、重くのしかかってきたのだ。ただ、一縷(いちる)の望みはあった。文化人類学の助教授である。一見、工学部にも美術系学部にも似つかわしくないように思える文化人類学の存在意義は、モノづくりや広告制作を文化や社会の観点から根源的に考えることにある。この先生に就けば、論文提出だけで卒業できるかもしれないのだ。
大学に入って、人が変わったように読書をするようになった私は、4年生になる前の春休みから、日記代わりにエッセイを書いていた。後で読み返してみると、1か月ごとに文章をまとめるのが上手くなっている。読書の効果であろう。もはや私の頭の中に数学や物理・化学はなく、完全に文科系学生の脳ミソになっていた。
その勢いで私は、4年生の11月より卒論を書き始めた。テーマは「大衆と儀式化」…。
今思えば赤面もので、何もわかってない学生が、よくもこんな抽象的で小難しいことをこねくり回したものである。しかし、担当教官の評価は高かった。曰く「文章力は、文科系の学生の中に入っても引けを取らない…」。他の教官も、内容よりも文章力に触れた。たった一人、人間工学(生理学)の助教授が突っ込みを入れてきたが、私の論文は社会学のジャンルなので、幸いにも論点がかみ合わなかった。
こうして無事、卒業制作をせずに卒業できることになったが、ふと気が付くと就職先がまだ決まっていない。私の就職活動は卒業後にずれ込んでしまったのだ。そして、ディスプレイ・デザインという想像だにしなかった道に迷い込むことになる。
仕事③ (2020年10月-2)
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